「つくもごみ」
2025年 8月5日 初版発行 / 白泉社 / 1430円(税込み)
この作者におなじみの味わいがすてきな漫画の短編集。
デビューから10年の節目に、これまでと変わらない、
路上都市観察&考現学&サブカルテイスト。
* * *
読後感に、
収められた短編の中から……
日本歩道橋株式会社(その詳細設定みたいなのなくて、
たぶん、歩道橋の導入検討先への営業&実際の設置、
アフターケア、など、と事業内容を想像してみたり)
そこに属してる主人公と一匹にいつものコンビが、
横断歩道のせいで利用されなくなった
一本の歩道橋を目にして、自社の未来を憂い
今一度歩道橋の魅力を再発信しようと試みる、
っていうのがあって、
その利用されなくなった歩道橋に対し、
上り下りのストレス緩和にベンチを備えた休憩スペースを増設、
そこでいっぷくする主人公が、回り道(歩道橋を利用)
したくなる動線をつくるのはどうかって発想し、
休憩スペースにキヨスク、自販機、公衆トイレを備えた
カフェ化へ拡大、
すると、立地に最高で土地代もゼロ、
テナント収入で工費もペイ、近隣住民の反応も上々、
その物珍しさも手伝って歩道橋上の複合商業施設として
話題にもなり、大型スーパーや図書館からの参入希望もあり、
って感じで展開していくお話なんですけど。
そのままいけば近い将来合理的な判断のもと
撤去となるはずだった一本の歩道橋が、そんなふうに
アレンジされて息を吹き返すの、魅力的です。
お話のモチーフとして登場する、歩道橋。
良いですよね、車道以外に鉄道線路をまたぐのなんかも。
階段を上(下)っていくのとか、なだらかな坂っぽいのとか、
螺旋を描いて上(下)っていくのとか、
それらの混合みたいなのとか、ほかにも。
目的の方向に道すがらあったなら、
そばに横断歩道見かけても利用する方です。
ちょっと高みに見晴らしを楽しみたくて。
なにかと直線的な(遠回り、回り道しない)動線に
なってしまいがちな世界だけど、
そう考えると、歩道橋って、
心持ちに余裕を計るバロメーター的存在とも。
利用すると、程度にどうあれ、気持ち上がります。
* * *
収録された短編個々に関連するモチーフなどでにぎやかなカバー
* * *
日本歩道橋株式会社のお話にもう一編あって、
歩道橋の上り下りの動線が横断歩道と比べてマイナス要素
(移動に面倒)であると眺めた主人公が、
「つまりマイナス(上り)× マイナス(下り)で
プラスになる筈!」ってそんな計算式を立てて、
マイナスが大きければそのぶんプラスも大きくなるって考えから、
歩道橋をめっちゃ高くして、そこに
「見えてくるものがある筈なのだ」と、
長い長い階段に息を切らしててっぺんまで上ってみたら……
っていうのが。
歩道橋を高くしたことですごくよくなった眺望、
その代わり、段数のものすごく増えた階段。
一段いちだん丁寧に描かれてる縦長のコマに感嘆。
そんな歩道橋が現実にあったなら上ってみたい。
展望タワーとか観覧車のてっぺんとかビルの屋上とか
ほかにも見晴らしいい場所ってあるけど、
“高い歩道橋” ってところが大事、
ならではの味わい。
前にご紹介の「趣都」そこで扱われてるテーマの一つに
“階段” そのお話と根底で通じてるっておぼえに、
階段にも色々あって構わない! 階段に自由を!
そんなシュプレヒコールの聞こえてきそうな、愉しさ。
* * *
ほかの短編も、
めっちゃ高い歩道橋が普通に存在してるそんな
いつもの世界観に、そこで暮らしてる主人公の日常風景や
妙ちくりんな事象のあれこれに、愉しい。

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