いつものテイストに、
それが手で触れられる形でも味わえる、
みたいな一冊。

「そぞろ各地探訪 panpanya旅行記集成」
1月と7月 発行 / 2700円+税 / 昨年末に予約し購入
旅(の思い出)が概ね下敷きになってる漫画と読み物の
収められてる一冊。
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この各地探訪の記に根差してるのは、
作者の特徴にすっかり親しいっていえる、考現学🔗。
旅先で見かける看板、飲食物の包装や容器のデザイン、
旅館で売られてるグッズ、トンネル通路の壁の落書き、
カニカマその商品の種類と個々の味の徹底調査、など、

また、
多くの人が当たり前すぎて関心に希薄だったり
それすらなかったり、そんな場所や状況などを
題材にしたりお話に盛り込んだりするところにもそうで、
「寒くせず初詣に向かえる方法はないものか」と、
そこで地下鉄の改札を抜けて神社の目の前まで
地下道が通じてるという聞き耳から、その新宿にある
花園神社を目指して、北風が当たらないばかりか
空調の効いてる場所さえある、地下で繋がる通路に
広い空間を、どこかスキャンするかのように、迷い歩く、

みたいな、軽い思いつきに端を発するようなことも、
だからどうでもよいとせずに拾い上げる、そんな視点を
大切にサルベージして見せてくれてる感じに
楽しくもあり、深遠。
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旅先に実在する場所を取り上げながら、そこへ
架空のことをさも本当のように入れ込んでくる描出に、
別の世界線を旅してるようで、
京都を訪れるところなんて、
三十三間堂の敷地内に現在「三十三重の塔」が
2026年頃完成予定で建設中、なんてことが描かれてて、
スカイツリーに対抗するそれを拝んでみたい気も。

同じ作者の単行本「足摺り水族館」には
第二京都タワーが登場するお話がありましたね、これ。

各地探訪の一編に、伝書鳩を怪我させてしまい、
その怪我の治療にどうしたものかと考える主人公たちの、
鳩だから、と、伊東のハトヤホテルへ湯治を目的に訪れる
ってお話、同じように散策&宿泊の気分で和む~。
ただし伊東から帰ってきてその締めくくりに、
うひゃーそうきたー、って感じですけれど。
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そう、述べておかなきゃいけないことに、装丁。
本としてのありように、一般的なリズムを
外してるってところ。

過去に連載の作品だけを一冊にまとめるんじゃなくて、
これまでに自費で出版してたそれぞれサイズの異なる
冊子も一緒にまとめる、合本ってスタイル。
読んでて、
話が変わるタイミングでページのサイズも変わる、

紙質も変わって、
装丁による味変とでもいえばいいのかな、
妙味が増すっていうか。

この装丁に、
このお話の集まりだからそうあるべき形になった、
それ以外の形にあり得ない、って印象。
そこのところに、ふと、夏目漱石「夢十夜」の第六夜を
思い出したり。
運慶は鑿を使って仁王の眉や鼻を作ってるんじゃなくて、
木に埋まってる眉や鼻を掘り出してるんだ、っていうのを。
以前の記事「週刊本6 本本堂未刊行図書目録 🔗」の
装丁デザインの数々にも、眉や鼻を掘り出してるだけ、
って思いもしたり。
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そんなわけで、
夏目漱石「夢十夜」原作の映画「ユメ十夜」を
また観たくなった、
「そぞろ各地探訪」読後の感に幾分でした。
サウス さん
返信削除いつも思うのですが、サウスさんのご紹介されている書籍は一体どこでお知りになったのだろう? と不思議に思います。…まあ、誰でも自分の世界を持っている訳で、私には全く接点がないだけなのかもしれませんが ^^;)。
因みに、考現学と言う単語は初めて知りました。興味深いです。ん~、なんかこの絵柄は見た事もあるような…。
しかし、このリズム外しの製本は非常に面白いですね。あえて狙っているような気もしますし、ある意味修正コストの削減にもなっているのかな? 普通はあまり許可されないような気も。
335さんへ
削除普段から興味あるものに目や耳をやってると情報が入ってくるっていうか
ビビビって。335さんも同じかなって思うんですけれど、どうですか?
考現学、知って頂けてよかったです。とっても奥の深い学問なんです。
義務教育で学ぶことができたなら、教育そのものが更にもっと
豊かになるんじゃないかなって思えたり。
この本の装丁に、異色で幾らかアクロバティックな感じにも引き込まれます。
大手のような企業とは違ったルートでの印刷・製本なので、
普通難色示されそうな装丁にも融通が利いたのかなって思います。
そのぶん価格は高くなって、でも読んでて心地いい本でしたから
購入に間違いなしでした。
合本って、初めて知り、お写真で初めて見ました。
返信削除読者にはお得感があって嬉しいですけど、本の印刷会社泣かせですね。
考現学も初めて知りました。
でも、「私も実践しているかも」と少し思いました。
旅先やウォーキングの途中、いろんな文字・文章・表現を好奇心を持って眺めている(ウォッチングしている)からです。
そこから新たな展開が生まれるのも楽しいです。
京都タワー、夜、京都の下宿からはるか遠くで光っているのをよく見ましたが、なぜあんなデザインの塔が京都にあるのか、考えれば考えるほど不思議でなりません。
コウジ菌さんへ
削除漫画家さんの注文に印刷会社が寄り添ったぶんだけ読者側に楽しい、
そんな手間にとっても感謝の一冊です。
考現学は日常の当たり前をじっくり捉え直してみる、奥深い学問なんです。
はた目から見ると、なんでそんなことしてるの、おかしなもの観察してる、
みたいな感じなのかもしれないけど、それは、自身の思考磨き、で、
世界を知るための鍛錬。そこから更なる世界線が開けます。
京都タワーも見慣れたら当たり前すぎて、あの形状の意味に
考えたりしない、知らない市民に結構いるはず。あれは灯台ですよね、
京を照らすっていう意味があって。多くの人があの形状のモチーフに、
ろうそく、って言うんでしょうね…古都の印象もあって。